動物の魔法のような優しさに包まれたうちの家族。

   東京ではアライグマが繁殖してるそうだ。

   30年程前の話。親父の友達で動物好きな人がおり子供の頃にその人の家へ頻繁に家族でお邪魔していた。

私の目的は動物だ。庭には孔雀や鶏に鳩。柴犬。喧嘩せず暮らしてる。

家の中には亀が這いずり回り、その後をついて行っていた。

おっさんが抱きかかえて連れてきたのがチンパンジー

オシメをしているから子供だったのかもしれない。慣れてくると抱っこしたり、くすぐったりして遊んだ。

おっさんが差し出すバナナを取られまいと、我先に取って皮ごと食べている姿は可愛かった。

 

  おっさんがチンパンジーと遊ぶ姿が印象に残ってる。両手に何もないことを確認させて手品用のスポンジの玉を右手に入れる仕草をし出すとチンパンジーは食い入るように見ている。

おっさんがどっちの手にあるかをチンパンジーに促すと、勿論おっさんの右手を探り始める。おっさんが右の手のひらを開けるとそこには何も無い。チンパンジーは辺りを見回し何が起こったのかわからず不安な顔をする。

左手に目を向けさせ、ゆっくり手のひらを開けるとスポンジの玉が出てくる。

チンパンジーは驚き、歯をむき出して笑いながらひっくり返る。チンパンジーはその遊びを何度も催促し同じことを繰り返して楽しんでる。

チンパンジーは賢い。遊びを知ってる動物だ。

   

   子供の頃は田舎に住んでいたのでいろんな動物が家を訪ねてくれた。

庭に実った柿を盗みにくる猿。狸。野良猫。野犬。鹿に猪。近所の養豚場から抜け出した豚や牛。

春先は特に賑やかで、サカった猫がうるさい。

豚や牛の脱走はしょっちゅうで、朝起きて窓を開けると目の前で寝っ転がってるなんていつもの風景だった。

親父が持ち主に電話すると「今日は行けそうにないから明日まで預かってくれ」

親父は大きなため息をつきながらも慣れた手つきで豚や牛を藁を編んだ紐で逃げないように庭に括り付ける。糞は肥料になるからと藁と混ぜて庭の花壇に運ぶ。手際がいい。

子供の私にとって豚や牛は象くらいの大きさにも思えた。親父が「後ろに回ったら蹴飛ばされるから、絶対後ろへ行くな」親父は百姓の子。飼ってたから手慣れてる。

会社勤めの親父が大きなため息をつきながらも世話をする。滑稽だ。

次の日、学校から帰ると何事もなかったように日常に戻る。母親がずっとニヤニヤしてる。

「別れ惜しむように帰る家畜と、見送るお父さん。くっくっ(笑)」

あんなに実ってた柿の木の実は何処へ。裸の柿の木の下で今日もため息つく親父。

スポンジの実でも付けといてやろうかと思った。