デス・ストランディング 考察19 クリア後の感想

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 ヒッグスについての補足です。ヒッグスとはズバリ、「ネトウヨなるゴミクズ」のメタファーです。今や世界共通言語にもなっている「ひきこもり」を小島さんなりに表現しています。海外の映画で失業者やひきこもりを表現する際に、パーカーを着て街を彷徨い、ひとり寂しく部屋に籠もってピザ食べるシーンが描かれています。ひきこもりを感じ取れるか否かはプレイヤー次第です。表面的なことをなぞるだけでは「ひきこもり」を描くことにはならないと思うのです。ヒッグスに関しては、「ひきこもりの原因」を深く掘り下げるべきだったと思います。今回の考察は、そこを掘り下げたいと思います。

 

 ハッキリ申し上げてヒッグスとは何かが表現されていません。その何かをヒッグスの手記で明らかになるのですが、単なるキャラクター設定の説明で、ひきこもりの原因を掘り下げることにはなっていないということです。単に、「アメリに、そそのかされた可哀想な人」という印象だけが残る。ポピュリストのアメリにそそのかされた原因や、ひきこもりからの脱却をサムやフラジャイルに託す試みもない。サムとの殴り合いやフラジャイルがトドメを刺すくだりは、中二病の青臭さが増すだけです。次回作の前振り(伏線)な印象なのも強引です。

 ネトウヨを生み出した要因のひとつとして考えられるのは、移民問題で失業した妬みや怨みといったアメリカの分断をまねいた空気感です。さらに、その空気感を利用してトランプ大統領を生み出した負の空気感を体現しているのですから、その原因を解決していかなければ分断を描くことにはならない。フラジャイルが「ヒッグスも昔は良い人だった」という説明だけで終始し、それをヒッグスの手記で確認するという作業になっています。全く救いがないのです。ヒッグスを弱者として丁寧に描いていれば弱者として感情移入できます。ヒッグスのジョーカーとしての役回りは最高のものになったと思います。フラジャイルやサムの顔を舐めるくだりもいらない。ジョーカーとしての表面的な狂気やジョークをなぞっているだけです。ヒッグスの弱者としての側面を表現して成功したと思うのがホアキン・フェニックス主演の「ジョーカー」ではないでしょうか。丁寧に描いていますよね。それ以前にもロバート・デニーロ主演「キング・オブ・コメディ」「タクシードライバー」があります。小島さんが伝えたかったことはわかるのですが、ヒッグスを突き放すべきではなかったと思います。ヒッグスそのものがアメリカの分断をまねいた主題なのです。つまり、一番、丁寧に描くべきところを疎かにしてしまった感があるということです。考察18で述べたように「アメリカの分断を描いていない」とはこういうところにもあらわれています。

 プレッパーズのようなスタンスの人達を描いたところで、このデスストランディングの世界観では、それが正義のような側面もあるのですから、リバタリアン的な解釈を前面に出すのはネトウヨの成れの果てを描いただけで説得力に欠けます。ヒッグスもプレッパーズも元を辿ればひとりの人間です。そこに至るまでの人間味が描かれていないのです。

ラストの場面でサムとルーが虹を見ます🌈。逆さ虹ではなく、虹が橋のようにかかっている映像を見せます。この世界の人は橋がかかっているような虹を見たことがないと思うのですが、私達の世界と繋がっていることを表現しているとも捉えられ清々しい印象を与えます。最後に救われたことを表現しているのでしょうが、キャラクターを丁寧に描かれていないので虹がかかろうがルーが独り立ちしようが共感できないのです。

それはなぜかというと、プレッパーズやブリッジズのメンバーが外に出て外気を吸い喜び合うカットがないのです。分断から解放され壁を越えて出てくるカットがないのです。小島さん1人が救われているからです。救うべきは、アメリカの分断の要因でもあるネトウヨなるゴミクズであり、明日そうなるかもしれない人達。つまり、ゲームプレイヤーだということです。ルーとサムが救われたことでそれを表現していることは掴めるのですが、テーマの主題であるヒッグスも救わなければ誰一人として幸せにはなれないと思います。この現実的な虹は誰も救われなかったという絶望でしかありません。終わりの始まり。続編へ続くという含みなのでしょうか? 

 

 今回は、ヒッグスを掘り下げましたが、単なる中二病の慢性化という捉え方をされている方も多いはず。小島さんが伝えたかったことは、「ネトウヨなるゴミクズとは、何かのタイミングで誰しもが成り果ててしまうかもしれない善良な市民である」ということが上記で理解して頂けたかと思うのですが、小島さんが問題提起したかったということだけは掴めます。しかし、ヒッグスのキャラクターの掘り下げがないので伝わらない。それが主題の含みであり印象付けで終わっていることが残念。それがないということは単なる丸投げと変わりません。世界観が複雑なのですから主題はわかりやすくしたほうがいい。丸投げでは理解してくれないと思いますよ。

 

なお、考察⑦  にてヒッグスに触れてますので、そちらも参照ください。

https://gegegenobacabon.hatenablog.com/entry/2019/06/19/184500