小説 「悪党パーカー」ロスを嘆く
ドナルド・E・ウェストレイクが別名義のリチャード・スタークで執筆していた悪党パーカーのシリーズをご存知でしょうか?
犯罪小説の王道でありケイパーといえば悪党パーカー。
影響力は計り知れない。
このウェストレイクという作家は多才で映画のシナリオも執筆している。
「グリフターズ/詐欺師たち」
ジム・トンプソン原作犯罪小説を映画のシナリオにリライトした。アカデミー賞最優秀脚本賞作品。
派手なアクションはないが詐欺師達の騙し合いがリアルに描かれている。俳優陣の演技が素晴らしく暇さえあれば観てしまう。
本職の小説ではエドガー賞を3回も受賞。
自身の原作の映画化作品は他にも多数あります。
「殺しの分け前/ポイントブランク」/ 原作「悪党パーカー/人狩り」
リー・マービン主演。
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「ペイバック」
メル・ギブソン主演。「殺しの分け前/ポイントブランク」リメイク。
「パーカー」/ 原作「人狩り」
ウェストレイク生前は悪党パーカーのパーカー名の使用を使わせなかった。理由はわからないが、創作者として手渡したくないのではなく、アレンジしてさらに良いものを作ってくれと言いたかったのかなと思っています。この作品がパーカー名義で初映画化。共演者のジェニファー・ロペスが最高に良かった。演技が上手い。
「ホットロック」/ 原作「ホットロック/ドートマンダー」
ロバート・レッドフォード主演。
「汚れた七人」/ 原作「悪党パーカー/汚れた七人」
ジム・ブラウン主演
映画は日本未発表。
「組織」/ 原作「悪党パーカー/犯罪組織」
ロバート・デュバル主演。
※映画/原作ともに絶版
「悪の天才たち 銀行略奪大作戦」/ 原作「強盗プロフェッショナル/ドートマンダー」
※映画/原作ともに絶版
「メイド イン USA」/ 「悪党パーカー/死者の遺産」
「悪党パーカー/死者の遺産」のプロットを無許可で拝借し裁判沙汰になった問題作。モロッコの左翼政治家失踪事件「ベン・バルカ事件」を描いた問題作。っというより、とにかくアンナ・カリーナを撮り続けたい願望が強すぎる作品。
ゴダールはアンナ・カリーナのことが大好きだったんでしょうね。
映画化も素晴らしいが原作ありきのクオリティですから古本屋で見つけたら救ってください。
原作小説(Wikipedia 抜粋)
- 悪党パーカー/人狩り(The Hunter (Point Blank)、1962年) - 日本語訳:小鷹信光(ハヤカワ文庫)。シリーズ第一作。1967年に映画化。
- 悪党パーカー/逃亡の顔(The Man With the Getaway Face、1963年) - 日本語訳:青木秀夫(早川書房)
- 悪党パーカー/犯罪組織(The Outfit、1963年) - 日本語訳:片岡義男(早川書房)
- 悪党パーカー/弔いの像(The Mourner、1963年) - 日本語訳:片岡義男(早川書房)
- 悪党パーカー/襲撃(The Score、1964年) - 日本語訳:小鷹信光(ハヤカワ文庫)。別シリーズのキャラクターである俳優強盗アラン・グロフィールドとの共演。
- 悪党パーカー/死者の遺産(The Jugger、1965年) - 日本語訳:笹村光史(早川書房)
- 悪党パーカー/汚れた七人(The Seventh (The Split) 、1966年) - 日本語訳:小菅正夫(角川文庫)
- 悪党パーカー/カジノ島壊滅作戦(The Handle、1966年) - 日本語訳:小鷹信光(角川文庫)。強盗グロフィールドと再び共演。
- 悪党パーカー/裏切りのコイン(The Rare Coin Score、1967年) - 日本語訳:大久保寛(早川書房)
- 悪党パーカー/標的はイーグル(The Green Eagle Score、1967年) - 日本語訳:木村二郎(早川書房)
- 悪党パーカー/漆黒のダイヤ(The Black Ice Score、1968年) - 日本語訳:木村二郎(早川書房)
- 悪党パーカー/怒りの追跡(The Sour Lemon Score、1969年) - 日本語訳:池上冬樹(早川書房)
- 悪党パーカー/死神が見ている(Deadly Edge、1971年) - 日本語訳:桐山洋一(角川文庫)
- 悪党パーカー/殺人遊園地(Slayground、1971年) - 日本語訳:石田善彦(早川書房)
- 悪党パーカー/掠奪軍団(Plunder Squad、1972年) - 日本語訳:汀一弘(早川書房)
- 悪党パーカー/殺戮の月(Butcher's Moon、1974年) - 日本語訳:宮脇孝雄(早川書房)
- 悪党パーカー/エンジェル(Comeback、1997年) - 日本語訳:木村仁良(ハヤカワ文庫)。23年ぶりの再スタート作。
- 悪党パーカー/ターゲット(Backflash、1998年) - 日本語訳:小鷹信光(ハヤカワ文庫)
- 悪党パーカー/地獄の分け前(Flashfire、2000年) - 日本語訳:小鷹信光(ハヤカワ文庫)。第19長編。2013年に映画化。
- 悪党パーカー/電子の要塞(Firebreak、2001年) - 日本語訳:木村二郎(ハヤカワ文庫)
Breakout(2002年)
Nobody Runs Forever(2004年)
Ask the Parrot(2006年)
Dirty Money(2008年)
どれもおもしろい。翻訳を首を長くして待ってます。
シリーズ通して映画化希望。ジェイソン・ステイサムでシリーズ化すればいいのにと思うのですがどうでしょうか。
出版不況?! いや違うでしょ!
ここ数年、出版不況で書店が潰れたと騒がれていますが、海外は出版不況どころか書店は潤ってる。たしかに大手チェーンの閉店があり、日本でも出版不況という言葉自体が現実のものと捉えられていた。
電子書籍販売比率は2008年8%、2013年以降から急速に伸ばし、いまや20%と達している。書店の月別売上比率の書籍(単行本/ハードカバー)は30%以上あれば売上が安定する。たとえ電子書籍の販売比率が上がろうと電子書籍は競合でもなければ、売上減の要因でもない。
ネット環境が行き届いている海外では、それでも書店の売上は伸びている。
日本と海外の出版の差は何か? 理由はひとつ。
賃金が低下しているからです。
お給料が下がっているから売れない。服買う金ないからファッション誌を買わない。雑誌買う金ないのに書籍なんか売れるわけない。
20年前までは「経済まわって社会まわらず」
いまや「経済も社会もドン底」。
根本を変えないかぎり「出版不況」「少子化」という嘘かホンマかわからない「原因不明な言い訳」に振り回されることになる。
今、日本は岐路に立たされている。根本を変えましょう。
小説 オールタイムベスト 海外小説
海外小説オールタイムベスト(順不同)
「読書好きの為の読書リスト」ではなく、「海外小説、何を読んでいいかわからない方向けの読書リスト」です。
私も何を読んでいいかわからなかった時に他の方がオススメするオールタイムベストを参考に読み始めました。言うなれば私のオールタイムベストですがご参考までにどうぞ。
海外小説を読まない方と話している際によく聞くのが「日本のベストセラー小説は一通り読んでいるが海外の小説はちょっと苦手」「村上春樹は読んでるけど…」という方も是非どうぞ。
ネットのまとめサイト見て分かった気分になるより、読書は多額のお金がかからない投資です。「やっぱり自分には合わないなぁ〜小難しくて読むのが辛いなぁ〜」と思っている貴方の為の読書リストです。べつに「積ん読」になってもいいんです。後々理解できるし、また思い出したように読みたくなります。故に、ランキング形式でもなく、ピックアップした数も多くはありません。気軽に読んで頂けると思います。
「あなたに似た人」ロアルド・ダール
児童文学「チャーリーとチョコレート工場」から大人が楽しめる「あなたに似た人」と幅広い作家さんです。星新一さんが好きならオススメします。理由はひとつ。ハズレがありません。
「レベッカ」ダフネ・デューモリア
いきなり濃いのいくね〜とはおっしゃらず読んでくださいね。「レベッカ」「鳥」はヒッチコックが映画化したことでも有名です。映画化された小説はイメージしやすいです。どちらもショッキングな映画でした。本を読み慣れてない方も読み出すと止め時がわからなくなります。とにかく怖いのでオススメ。他の作品も再翻訳されているのでこの機会にどうぞ。
ダフネ・デューモリアは短編の名手でもあるので本屋で見つけたら即購入してください。
ピューリッツァー賞受賞作。
家族を養う為に良かれと思う行動が理不尽にも悪い方向へいく。アメリカという巨大な社会に振り回されていく家族。いつの時代も変わらないテーマで描かれています。映画化あり。どちらも傑作。しかもスタインベックは短編もオススメですよ。まずは「ハツカネズミと人間」、短編集の「熊のジョニー」はオススメ。
ジェームズ・ディーンで映画化もされた傑作。映画は小説の前半部だけで映画では語られなかったことが小説では詳細に描かれています。小説の味わい深さを改めて教えてくれた読み物。優れた読み物となるはずです。物語が複雑なので映画を観た後で巻末の解説を読んでから読まれることをオススメします。その時代の社会情勢や聖書を引用した物語であることが解説されています。日本人には社会情勢や聖書に書かれていることは小難しい。解説を読み意味を理解してから読むという読書方法も「あり」だと思います。是非試してみてください。読んだ後は「怒りの葡萄」をもう一度読みたくなりますよ。
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「羞恥」チョン・スチャン
訳者の斎藤真理子さんの解説を読んでから本編を読まれることをオススメします。お隣の韓国文学なのですが、韓国のことは知っているようでまったく知らなかったことが多いことに気づかされます。
北朝鮮からの脱北者3人が主人公です。オリンピック村建設予定地で朝鮮戦争時代の大量の人骨が出土します。彼ら一人一人の生い立ちが凄まじく、オリンピックという経済至上主義な概念の中で彼ら脱北者達の倫理観が少しづつ崩壊していく衝撃作。彼ら「生き残った者の羞恥」が描かれています。その羞恥とは何か? ご自分で確かめてみてください。
ここ十数年で一番印象深い作品です。
テッド・チャンの小説の大きなテーマは、「たとえ未来がわかったとしても過去や未来を変えることはできないが、今なにをするべきかを考えることはできる」今必要とされている思考だと思います。
映画化された「あなたの人生の物語」はまさにそのことを伝えてくれる素晴らしい短編です。今一番、新作が楽しみな作家です。
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「狩人の夜」の映画化では、映画「第三の男」で主役を演じたジョセフ・コットンが監督しロバート・ミッチャムが子供達を執拗に追う殺人者を演じました。モノクロ映画なのに彩り綺麗な映像を彷彿させます。幻想的な映像に腰を抜かすと思いますよ。原作本は絶版なので映画をオススメしますが、古本屋のワゴンセールに頻繁に埋もれているので見つけたら即お買い上げください。…っていうか救ってやってください。映画もレンタルビデオ店に置いていない場合もあります。では、無いものを何故オススメするのか?
子供達が体験する「恐怖」を夢の中の影と思い込み、実は邪悪で恐ろしい現実となって襲いかかってきていた。その「恐怖」とは、アメリカという巨大な何かから逃げても逃げきれないという恐怖を描いています。アメリカという直接的な表現はありませんがアメリカが推し進める経済政策や貧困層への理不尽な制裁といったことがふくまれているように思います。「怒りの葡萄」と共鳴しているようにも思います。
語りはマーク・トゥエイン「トムソーヤの冒険」のインディアンジョー(インジャンジョー)に追い詰められる恐怖を彷彿させます。インディアンジョーは差別や貧困で追い詰められた悲しいマイノリティーの側面があるのですが、「狩人の夜」で追い詰めてくる殺人者は金の為なら誰でも殺す悪い白人です。追い詰められるハラハラドキドキ感を味わってみてください。一級品です。
「ハックルベリーフィンの冒険」マーク・トゥエイン
マーク・トゥエインといえば「トムソーヤの冒険」、「ハックルベリーフィンの冒険」が有名ですが、他の作品も傑作揃い。今更と思うなかれ。年に何度も読み返したくなりますよ。オールタイムベストで1冊だけ選ぶとなると「ハックルベリーフィンの冒険」を選びます。
トウェイン完訳コレクション アーサー王宮廷のヤンキー (角川文庫)
- 作者:マーク・トウェイン
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- 発売日: 2009/12/25
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映画も素晴らしく釘付けになりますが「エデンの東」同様に小説の前半部しか描かれていません。後半部も腰抜かすくらいビックリしました。成長を止めたオスカルが戦後ドイツ社会の様相を体験していく前半部と自立したオスカルがトラブルに巻き込まれて身も心もボロボロになる後半部。戦争に巻き込まれた市井の人々を描くことで無垢で何事も無関心だった大人達がヒットラーに熱狂し従って悲惨な目に遭う様相。これ、今の日本のことだよ。
ヘルマン・ヘッセといえば「車輪の下」傑作中の傑作です。「車輪の下」同様に傑作なのが「デミアン」です。
映画や小説のジャンルにギムナジウムというジャンルがあります。映画ではロビン・ウィリアムズ主演「いまを生きる」、「スクールオブロック」もその系譜です。漫画では萩尾望都の「トーマの心臓」。代表的な小説は「飛ぶ教室」。寄宿学校を舞台に思春期の友情や生きることへの不安や恍惚、子供から大人への成長過程を描いています。傑作揃いですね。ゲームでは「ブリー」という傑作も出てます。その中でもサスペンス要素と悟りのような文章を含んだ面白い小説が「デミアン」です。
現代兵器を利用した悲惨な戦争、第一次世界対戦でこれまで経験したことがない悲しみを味わった人々が鬱になり自己を問うようになる。「デミアン」は東洋的な悟りのような小説。当時の人々に受け入れられ今もなお読み継がれている傑作です。誰しも死にたいと思ったことは一度や二度ではないはず。是非読んでください。ヘッセの大ファンになりますよ。ただし、暗い。自分の鬱屈した気持ちに押し潰されそうになります。そんなときは「スクールオブロック」観て気持ちのバランスを保ち続けてください。
スタンダールといえば「赤と黒」も傑作中の傑作ですが、「パルムの僧院」もオススメ。ナポレオンに憧れる無垢な美青年がワーテルローの戦いに飛び込んでいくことから物語が転がっていきます。恋、戦争、政治、冒険、宮廷のお家騒動と物語は目まぐるしく展開していきます。面白いのなんの止め時がわからなくなります。海外ドラマをイッキ見しているような感覚です。オススメ!!
「暗黒事件」バルザック
フランス帝政時代の独裁政治を描いた実録もの。政治家の陰謀、仁義なき戦いとでもいいましょうか、その時代の空気感、独裁政治の本質を見事に描いています。しかも「人間喜劇」の登場人物や実在の人物まで出てきます。現実と虚構が入り混じった実録物。凄いですよね。
バルザックの特徴としては登場人物が他の作品にも登場します。スティーブン・キング作品の世界観が地続きであるようにバルザックも地続きなんです。当時の人はさぞ興奮したでしょうね。
ちなみにバルザックはスタンダール「パルムの僧院」を大絶賛しています。「パルムの僧院」を読むきっかけはバルザックなんです。
「ティンカー テイラー ソルジャー スパイ」ジョン・ル・カレ
ル・カレ作品は映画化も多く、映画から小説に入ったくちなんですが、おもしろい! ル・カレ作品はタイトルの付け方もセンスがありますね。映画「裏切りのサーカス」も抜群にハイセンスでおもしろい。
<サーカス(英国諜報部)の中枢部に潜むソ連の二重スパイを探せ!>
英国諜報部を引退したスマイリーが呼び戻された。その二重スパイは、かつての仇役ソ連情報部のカーラを影で操っているという。007のような派手なアクションはないがジリジリと追い詰めていく。その展開は元英国諜報部員のル・カレならではの説得力がありグイグイ読ませます。
ジョージ・スマイリー三部作「寒い国から帰ってきたスパイ」「スクールボーイ閣下」「スマイリーと仲間たち」も素晴らしいが、英国女優がアラブのテロ組織に潜入する「リトルドラマーガール」も読ませますよ。
何より文学として優れています。これぞ小説の醍醐味です。
「スパイ達の遺産」は「寒い国から帰ってきたスパイ」の半世紀ぶりの続編。これで全て決着つきました。ル・カレ凄すぎる。
「月と六ペンス」サマセット・モーム
サマセット・モームもどれもおもしろいのですが、「月と六ペンス」は読みやすい。世界各地を取材旅行と偽って旅していたモームは、諜報部員だったそうです。謎が多い作家ですね。オススメです。
書簡体で綴られた恋愛小説の傑作。男女の別れ話と思いきやお互いが当て付けとばかりに様々な人と関係を持ち悲劇的な結末を迎える。恋愛とは、望みが叶うことではなく悲劇それ自体こそが恋愛の成就。
サディスティックな男女を描くことで貴族の欺瞞を皮肉っていた側面もあり革命の原動力になったという分析もあるようです。ラクロは軍人。退役後出版し時の人となります。紆余曲折あり軍人に復帰しラクロ自身も悲劇的な最後を遂げる。何故戦場に戻ったのかそれだけが疑問です。
「香水」パトリック・ジュースキント
18世紀、ズバ抜けた嗅覚を持った孤児が成長し香水調合師としてパリを熱狂させる。ある日、処女の体臭に我を忘れてしまい…
映画化もされ小説もベストセラーとなります。バルザックやエミール・ゾラと同じく、下水溝の整備が行き届いていない糞尿まみれの街の匂いが匂ってきそうな街の描写と香水というコントラストに度肝を抜かれた。小説としては映画以上に映像や嗅覚といった五感を読者に委ね、なんともいえない読後感を味わった。
「存在の耐えられない軽さ」ミラン・クンデラ
こちらもまず映画から入りました。あまりのおもしろさに小説も読み始めたのですが、これがまたおもしろい。日本文学が好きな方にはオススメ。
作者クンデラはチェコスロバキアからフランスに亡命し本作を発表。その後チェコスロバキアは解体されチェコ/スロバキア/ウクライナとして独立します。物語の舞台の時間軸はもう少し過去に遡りプラハの春を題材にした男女3人の恋愛模様を描きます。
世界的にベストセラーとなります。ここ日本では映画化の影響が大きいと思います。私も映画化されなければ知らずにいたと思います。この小説を読みチェコスロバキアに興味を持ちチェコスロバキア映画を観るようになりました。次作「不滅」もオススメします。
「スローターハウス5」「猫のゆりかご」カート・ヴォネガット・jr
ヴォネガットとといえば「タイタンの妖女」が有名ですが、この小説はかなり小難しい。じゃじゃ馬です。読みやすいのは「猫のゆりかご」。映画化もされた「スローターハウス5」です。SFやスプラスティック(ドタバタコメディ)なのでイメージを膨らませながら読んでください。なんといってもヴォネガットはエッセーもオススメです。
コニー・ウィリスの著作は、あまり好きになれなかったのですが、「クロストーク」でファンになりました。自分の中では格上げされた作家とでもいいましょうか、過小評価していたかなと反省した作家さんです。「クロストーク」はソーシャルメディアでの会話と通常の会話で進行していきます。映画で例えると「500日のサマー」のようにSNS上での会話劇が多用された映画と思ってください。ほぼ全編SNS会話のみの構成。最初は誰が喋ってるのかわからず戸惑いました。上下2段700ページというボリュームにも圧倒されましたが30ページくらい読むと慣れてくるので読むスピードも上がってきます。だんだんおもしろくなりイッキ読み。この体験は過去にない体験でした。読み物として新しいものであり、ある種の革新的なモノ。新しいジャンルの誕生かもしれません。
ここで、この方をご紹介します。
作家さんや書評家さん、翻訳家さんがピックアップされているオールタイムベストには、必ずと言っていいほどガルシア・マルケスが取り上げられています。ただし、難解なのでハードル高め。チャレンジするのであれば攻略方法をお伝えします。題して…ガルシア・マルケスの読み方!
まず、短編「予告された殺人の記憶」で文体に慣れること。次に「族長の秋」で誰が今喋ってるの?とという壁にブチ当たります。上記「クロストーク」同様に文体に慣れてくるとおもしろくなってきます。文体のリズムに乗ってください。リズムに慣れたら「コレラの時代の愛」。年寄りの純愛でチルアウト。そして「百年の孤独」で物語に酔いしれる。親子三代の繁栄と没落。壮大ですよ。
人間を描かせたらピカイチ。なんせノーベル文学賞受賞者です。
純真なエレンディラと邪悪な祖母の信じがたくも痛ましい物語: ガルシア=マルケス中短篇傑作選
- 作者:G・ガルシア=マルケス
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2019/08/23
- メディア: 単行本
わが悲しき娼婦たちの思い出 (Obra de Garc〓a M〓rquez (2004))
- 作者:ガブリエル・ガルシア=マルケス
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2006/09/28
- メディア: 単行本
予告された殺人の記録・十二の遍歴の物語 (Obras de Garc〓a M〓rquez (1976-1992))
- 作者:ガブリエル ガルシア=マルケス
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2008/01/01
- メディア: 単行本
全体主義国家が支配する近未来小説。その国家に都合のいいように歴史を改竄する仕事に従事する主人公ウィンストン・スミスが恋に落ちたところから物語が転がっていきます。新訳版ではトマス・ピンチョンが解説。こちらも合わせて読むとおもしろい。
ピンチョンが解説する二重思考がわかるとさらにおもしろくなります。現代の日本と照らし合わせながら読むことをオススメします。
トマス・ピンチョン 全小説 重力の虹[上] (Thomas Pynchon Complete Collection)
- 作者:トマス ピンチョン
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2014/09/30
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トマス・ピンチョン全小説 重力の虹[下] (Thomas Pynchon Complete Collection)
- 作者:トマス ピンチョン
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2014/09/30
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インヒアレント・ヴァイス ブルーレイ&DVDセット(初回限定生産/2枚組/デジタルコピー付) [Blu-ray]
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「ブラジルから来た少年」「ローズマリーの赤ちゃん」「死の接吻」アイラ・レヴィン
アイラ・レヴィンは読みやすくストーリーもおもしろい。オカルト要素ある「ローズマリーの赤ちゃん」や陰謀もの「ブラジルから来た少年」、犯罪もの「死の接吻」。日本のエンタメにもかなり影響を与えている作品です。残念ながら「ブラジルから来た少年」は絶版ですが映画は観れるので是非どうぞ。古本屋のワゴンセールにあれば救ってやってください。
「深夜プラス1」ギャビン・ライアル
ルパン三世に影響を与えた傑作。影響力は計り知れず、映画「トランスポーター」なんてまんま深夜プラス1。
スティーブン・マックィーンが映画化する予定だったそうですが叶わなかったようです。配役を妄想するだけで萌える。
アーヴィングはどの作品も傑作ですが絶版が多い。「ウォーターメソッドマン(川本三郎訳)」「サーカスの息子(岸本佐知子訳)」がもう出回っていないなんて酷すぎる。再販するべきですよ。名作です。
「オーランドー」ヴァージニア・ウルフ
オーランドーは何者か? 映画化もされた奇想天外な物語。映画ではティルダ・スィントン主演。予備知識無しで観たので腰抜かしてしまいました。詩人でもあるヴァージニア・ウルフは「灯台へ」「ダロウェイ夫人」の文章も素晴らしい。その中でも「オーランドー」は比較的読みやすい。
読書上級者はジェイムズ・ジョイス「ユリシーズ」、フォークナー「アブサロム、アブサロム」、プルースト「失われた時を求めて」といった『意識の流れ』(文学上の人間心理を解明する試みとして、人間の意識は絶えず流動しているとされる)を用いた手法で描かれている小説にもチャレンジしてみてください。海外文学を紹介する上でプルーストとジョイスは外すことはできません。
その練習としてヴァージニア・ウルフをオススメします。
その表現方法は、その人自体の内面を表現したり、その場の心の動きも絶えず記述していきます。その場面の大きな動きはないが時間軸が変化することで登場人物の内面のそのまた奥を知ることができる非常に奥深く、非常に難解な試み。
いつかは読みたくなりますよ。
デス・ストランディング 考察23 クリア後の感想 世界観
前回「考察22」にて世界観の参考になる作品を紹介しました。
考察22 ➡︎ https://gegegenobacabon.hatenablog.com/entry/2019/12/09/210723
今回はデス・ストランディングの世界観を構築するいくつかのテーマに関して、コミュニケーションの観点から作品を紹介します。
世界観 (テーマ:コミュニケーション)
アンダー・ザ・スキン 種の捕食
感情を持ち合わせない男女が言葉巧みに人間の性的な欲望を利用し人間を淡々と狩っていくことで、感情が劣化し攻撃的で排外的な現代人の行動そのものを揶揄している。捕食方法はタールに沈める。この形式はBTやボス戦に引用されている。彼らが何者なのかは語られない。異星人でありながら現代人を描いている素晴らしい作品。
その後、無感情な女が人の優しさに触れることで精神が崩壊していく。精神の崩壊、つまり、情を持つことで苦悩していくのだ。
「デスストランディング」は、人の優しさに触れることで人々を繋いでいくことをテーマとしている。つまり、テーマは「アンダー・ザ・スキン 種の捕食」のアンチテーゼである。
メッセージ
あなたの人生の物語
異星人とのファーストコンタクトを試みる為に、言語学者と物理学者が招集される。お互いの言語を理解し意思を伝えていく。言語学者の過去の出来事がカットバックで描かれていると思いきや、それは未来の出来事であったというSF的手法が素晴らしい。映画的な手法を上手に利用している。異星人の言語が円を描いたような文字(記号)と未来に生まれる娘の名前(ハンナ)がアナグラムというように、文字/名前/出来事がループしているのも素晴らしい。
主人公の言語学者の名前はルイーズ。BBの名前の引用元である。
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- 発売日: 2018/07/04
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上記の作品の共通点は「コミュニケーション」。
言葉を交わし関係を深め、人と接することで優しさを知る。感情を得たことで未来を絶望する「アンダー・ザ・スキン 種の捕食」と、未来を知ることで過去や未来を変えることはできないが、今なにをすべきか考え行動することを「あなたの人生の物語」は伝えている。
Tomorrow is in your hands
つまり、明日を掴めとは、そういうことだ。
デス・ストランディング 考察22 クリア後の感想 世界観
世界観
クリア後の感想。「世界観」
まず、ゲームの世界観と同じ世界観の作品をピックアップします。類似点も多いので、ゲームの世界観をより理解することができるのでご参考までに。
シモン・ストーレンハーグ「エレクトリック・ステイト」
物語性やビジュアル的にも同じ世界観を彷彿させる。
(以下、book data抜粋)
1997年。無人機ドローンによる戦争で荒廃し、ニューロキャスターで接続された人びとの脳間意識によって未知なる段階に到達した世界が広がる、アメリカ。10代の少女ミシェルと、おもちゃの黄色いロボット「スキップ」は、サンフランシスコ記念市の北、ポイント・リンデンのある家を目指し、西へとドライブする。スウェーデンから現れた鬼才、ストーレンハーグが超現実的イラストレーションとテキストで織りなす、奇妙な既視感さそうディストピア。
エレクトリック・ステイト THE ELECTRIC STATE
- 作者:Simon Stålenhag,シモン・ストーレンハーグ
- 出版社/メーカー: グラフィック社
- 発売日: 2019/04/08
- メディア: 単行本
少女と行動を共にする「黄色いロボット」を「BB」に置き換え、ニューロキャスターで接続された人びとの脳間意識によって未知なる段階に到達した世界を「beach」に置き換えれば、デス・ストランディングの世界観と同じになります。
ビジュアル的にもストーリー的にも同時期に小島さんと同じ発想をしている人がいたということです。
同時代に同じテーマで描かれた映画や小説がたくさん出てきますが、ストーリー性やビジュアル的にも同じなのはスゴイ偶然です。重なるときは重なるのですね。
過去の作品では…
「ポストマン」
荒廃した世界観で物資を届ける目的意識は共通する。
「ザ・ウォーカー」
本(聖書)を探す要素は、おつかいゲーム的要素を彷彿させる。
「インセプション」
脳内宇宙へ侵入することは、個人のbeachへ侵入することを彷彿させる。
「インターステラー」
時間軸の表現は「とき雨」「老化しない」「beach」「他者との繋がり」を彷彿させる。「ブリジットの病室シーン」はアメリのbeachから覗き込んだ様子が時間軸を超えて繋がる。
ビジュアル的にも「ルーデンス」を彷彿させる。
「2001年宇宙の旅」
スターチャイルドは「サム」と「ルー」を彷彿。宇宙飛行士は「ルーデンス」を彷彿。ギミックやビジュアルも影響されている。
「スローターハウス5」「ミスターノーバディ」
時間軸を超えて行き来する複雑なストーリーは共通する。また、「スローターハウス5」の戦争シーンと「ミスターノーバディ」の病室シーンは、ある意味オマージュともいえる。
スローターハウス5 (ハヤカワ文庫SF ウ 4-3) (ハヤカワ文庫 SF 302)
- 作者:カート・ヴォネガット・ジュニア
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1978/12/31
- メディア: 文庫
今回は世界観の参考になる作品をピックアップしました。これらを観ると、よりわかりやすくなります。
デス・ストランディング 考察21 クリア後の感想 フラジャイル
フラジャイルに関して
発売日前のフラジャイルの考察は以下の「考察15」ご参考までにどうぞ。
https://gegegenobacabon.hatenablog.com/entry/2019/09/22/013959
フラジャイルの設定に関しては、ゲームや深夜のアニメに出てくるような女性に似ています。サムに助言するところまではストーリーの関係上、仕方がない。ファストトラベルの要素も含めたキャラクターなのですが、サムのピンチを助ける使い勝手の良いキャラクターという設定で終始しており、好感もてません。ラスト、サムに「ウチに来るか」と催促しますが、立ち位置がよくわからない。そもそも恋愛感情もヘッドハンティングの意思もないやろと思うのです。行き当たりばったりで子供っぽい印象を与えています。
フラジャイルとヒッグスとの関係性として、過去にヒッグスに拘束されたエピソードが描かれます。解放の条件は、爆弾を放置したまま逃げるか、それとも、下着姿で爆弾を抱えたまま、裸足で逃げるという条件を提示します。さらに、とき雨で皮膚がダメージを負うので顔だけはマスクをつける。どちらの選択も残酷ですが、その条件おかしくないか?っと思いますよね。単に、その場から逃げるか爆弾を抱えたまま逃げるかの選択でいいのでは思うのです。
ファストトラベルが使えないのであれば、どちらにせよ、とき雨に濡れるわけですし、この状況では爆発は免れない。爆弾を選ぶのは当然です。
下着姿で走れというくだりそのものが要らない。何を求めているのかが分からない。顔をマスクで隠して雨に濡れないようにするのも、顔は残して肉体を亡き者にしようとする行為で何が言いたいのかがわからない。服は脱がさず雨ガッパでいいのではと思います。
つまり、死んでしまったママーの肉体をハートマンのところへ運ぶ表現と同じで、肉体に執着しているように思うのです。まるで女性の肉体を道具のように誤解を与えかねない表現にしている。あえて、そのような表現にするのならば別の表現があったのではと思います。恨みがあるのであれば、顔を殴ったりナイフで傷つけるのが定番なんですが、顔を傷つけないところに一種独特の異常さ、気持ち悪さ、悪く言えばサイコパスを感じます。怨恨ではなく青臭さを感じます。要は、そのテロ行為に意味があるのかわからない。こじつけがましいということです。
例えば…フラジャイルの過去をヒッグス交えて描くのであれば、小島さんが再三言っておられる安部公房「なわ」の子供に置き換えて描くべきです。子供2人は兄弟ではなく子供時代を共にすごした兄弟のような関係という設定に書き換え、同じ罪を負わせる。フラジャイルは育ての親から虐待され傷を負う。この地獄のような苦しみから抜け出す為に2人で協力し親を殺す。殺したことは2人だけの秘密。その後、フラジャイルは民間の配送会社の社長に引き取られ、ヒッグスはブリッジズ運営の孤児院へ送られる。大人になり2人は同じ罪を負った者として再会する。家業を継いだフラジャイルは社会との繋がりがあり、かたやヒッグスはブリッジズから抜け出しているので社会から排除された弱者となり、アメリに唆されテロリストとして利用される。
つまり、サムのストーリーと平行して、ヒッグスとフラジャイルは、同じ境遇で育ち同じ罪を背負った子供時代を背景に、大人に成長してからの人間社会に溶け込んでいるフラジャイル(社会適合者)と人間社会からはみ出してしまったヒッグス(社会不適合者)との対比を描けば、ヒッグスがひきこもった理由も少しはあきらかになりますしフラジャイルの体の傷も根深いものとして社会問題を描くことができたと思うのです。上記で述べたフラジャイルとヒッグスの爆弾騒ぎも描く必要はなくなります。
イルカになりたかったジャックマイヨールとマイヨルカの関係性に似ています。人間社会に戻ったマイヨルカとイルカの世界に行ってしまったジャックマイヨールという対比です。
まあ〜素人の妄想ですので説得力は欠けますが…安部公房「なわ」のオマージュとヒッグスのひきこもりの原因も描くことができると思います。この妄想のほうが気持ち悪いかぁ。少なくともヒッグスの人間性はサイコパスではなくなるはず。🤫🙏🏻
それはさておき、フラジャイルで性差別を描くと予想してました。(詳しくは考察15)
例えば…フェミニズム。
ハンドメイドテイル/侍女の物語
もっとわかりやすく言えば、マッドマックス・フューリーロード。これらフェミニズム映画をオマージュすればよかったと思います。
フラジャイルそのものの表現が、某ゲーム会社からの嫌がらせや世間からの誹謗中傷やバッシングという雨(とき雨)に打たれ身も心もボロボロになった様を描きたかったという意図は掴めるのですが、キャラクターの立ち位置が不安定な別の意味での壊れ物になっています。その思いが強いあまりキャラクターとして独り立ちできていません。
爆弾で都市が壊滅してしまう規模のテロ行為なら下着姿で爆弾を持たせ走らせるようなことは、まずさせない。単なる悪趣味です。爆弾を体にくくりつけ人間爆弾として拘束されているならまだしも、テロ行為そのものはいたるところで突然行われるわけですしブリッジズの巨大な組織がヒッグスのテロ行為を察知していないのも不思議です。フラジャイルのエピソードは強引かなと思います。
デス・ストランディング 考察20 クリア後の感想 サムとクリフ。BBについて
サムとクリフ。そして…BB
謎の人物クリフが何者なのか。クリフの妻である脳死状態の母親から取り出された息子サムをポッドに入れて育てている男としてサムの記憶から少しづつ紐解かれていきます。これらはサムがポッドと繋がることで失われたサムの記憶として蘇ってきます。ここでサムの生い立ちもあきらかになるのです。サムはクリフの子供であること。この演出は遊び心ある良い演出ですね。技術的な面が素晴らしい。
小島さんは、サムとクリフ。BBという三位一体を表現しているのです。
考察①と④で、三位一体の表現として、ゲームの創造主小島さんが父、子がサムでありノーマン、精霊がBBと考察しました。
サムとクリフの考察の前に、あえて、何故、父が小島さんであるべきかをお話しします。
某ゲーム会社で外との通信を奪われ、監禁状態だった際に、ゲームアワード表彰式を欠席。司会者ジェフさん(デスストランディングのプレッパーズとして登場してます)は、某ゲーム会社を非難し小島さんを励ましていました。この状態はサムでもあるBBや軟禁状態のアメリとも重なります。この状況を自虐的にゲームに落とし込めばよかったのです。つまり、自虐ネタです。庇ってくれた方や励ましてくれた方へのお礼の返答になるからです。整った舞台があるのに勿体無い。ジョーカーになり損なったと思いますよ。父とはゲームの創造主である小島さんである理由がご理解頂けたかと思います。
では、クリフは何かといえば、劇中で語られるサムの父親でBB奪還に執念を燃やす呪いのような存在として描かれています。ママーとクリフの共通点は親であるということ。その親としての描き方としては、BBがいるからママーの魂を肉体に繋ぎ止めていることとBB(サム)奪還という執念がクリフを実体化させているということ。全てはBBが繋ぎ止めているということ。では、BBすなわち、子と精霊は何かということ。
サムがBBなのは理解できます。BBは何かと言われると、答えが出ないのです。プレイヤーに託したい想いのような何かであることは掴めるのですが、ハッキリした答えが出ない。ルーはサムの子供。クリフからサムに託された子孫です。受け継がれる宝ということ。デスストランディングの最大の宝は子供であるということ。ここまでは理解できます。
考察18で、小島さんの内面が描かれていると考察しました。アメリが軟禁状態であることは某ゲーム会社との亀裂を描いています。ゲームを作品として届けることができないもどかしさをサムに託し、小島さんが作るゲームという作品がBB(文化)でありプレイヤーとの接点であるように思うのです。クリフは、小島さんのゲーム制作者としての自尊心やプライド、自信の表れのようなもの、ナルシズムのようなものを形にしたのがクリフです。BBは小島さんの子供。つまり、ゲーム(作品)です。別の意味では文化です。
クリフに関して、BB奪還に執念を燃やす怨霊のような存在であること。限られた世界観なのですから、サムが子供であることは魂で感じ取ることができるはずなんです。サム側に付いてサムを導く存在にしなければ単なる怨霊のようなものになってしまいます。復讐するなら結果はどうあれ復讐させるべきだったと思います。アメリが蘇らせた怨霊のような存在。ゲームを思うように作らせてもらえなかった悔しい心象。つまり、考察18でも述べたように小島さんの内面を写し出したキャラクターです。
サムはプレイヤーでありノーマン。ゲームを届けたかったもどかしさの表れです。
クリフのキャラクターの作り込みもヒッグスと同じく深堀りが足りません。もっと深く掘り下げるべきです。クリフの場合は、家族愛として掘り下げてほしかったと思います。ドラマ性が薄い要因は家族愛を掘り下げていないということです。マッツの演技を自分に重ねているナルシズムを感じます。ここは抑えるべきですね。